現代Fのオリジナルキャラクター達の紹介。
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※この小説はフィクションです。
薬物乱用、未成年喫煙、飲酒運転等の違法行為を推奨する意図は含まれておりません。
薬物乱用、未成年喫煙、飲酒運転等の違法行為を推奨する意図は含まれておりません。
耳を劈く電子音や、毒物の塊であるハンバーガーが好きだ。
頭空っぽの案山子たちと、中身のない会話を交わすのが快感だ。
ミラーボールに映る僕はとても綺麗だ。
途方もない方向を見て笑っている。
ゲームセンターとカラオケボックスが併設された娯楽施設から出ると、繁華街のネオンが毒々しく光っていた。
時刻は既に22時を回っているだろう。
店の入り口付近でじゃれ合いながら、アイドルの歌を口ずさんでいる友人たちを振り返る。
「ねぇ、次、どこ行く?」
友人たちは「あー」とか、「そーね」とか、曖昧な相槌を口にして、締まりのない笑顔を振りまいている。
「明日もガッコだし、俺帰るわ。」
「お開きでよくね?だいぶ遊んだよねー。」
「賛成~。」
歌いすぎで枯れた声たちが告げるのを、僕は居た堪れない心地で聞いていた。
「えーっうそぉ、もう帰るの?!待ってよ、まだ早いじゃん!」
奴らの背をバシバシと叩いて訴えるけれど、その背たちはせせら笑うように僕から離れてゆく。
「いやいや、遅いっしょ。寮の門限過ぎてるぞ。」
「それなー、見回りのセンセーに見つかるの面倒だし。」
―――― 待って、行かないで。
ざわつく心を抑えて、彼らと同じ笑顔を作った。
「だったら僕ん家泊まってけば?」
―――― まだ足りない。不安で寂しくて仕方ない。
「やーいいよ、毎回悪いじゃん。」
「つーか普通に疲れた。」
「ごめんな一刻~、またどっか行こうぜ。」
―――― ひとりにしないで。
そう思うのに。
ネオンの水面に揺れる友人たちの背を、追い駆けることができない。
「……なんだよ、つまんねーの! お疲れー、また明日学校で!」
お道化たふりをして手を振る。
それを彼らは見もしないで、やがてその脳から、僕の存在が薄れて消える。
一人になった繁華街の路上は、喧騒が聞こえてきてもおかしくないのに、耳はとても静かだ。
脳裏で木霊していた声がひとつも聞こえない。
吹きっさらしの荒野に佇んでいるような気分で、心臓が握りつぶされる。
無意識にスマホを取り出す。
機械のように素早く正確な動作で、メッセージを作成し、送信する。
誰に宛てるかなど考えていない。
誰でもいいから。ともだち、として登録されている人間に片っ端から誘いを入れる。
そういう日に限って、誰一人として捕まらない。
返事が来ないか、きたとしても、何かしらの理由で断られる。
寂しさの中に苛立ちが混じり、不安と相まって、無気力に変貌する。
僕はその感覚が何よりも嫌いだった。
自分が自分でなくなってしまう気がして、誰の記憶からも自分が消えている気がして、たまらなくなる。
「………だれか、」
親指だけがひっきりなしに動いて、スマホの画面に雫がひとつ落ちて。
「ねぇ、だれか……… 遊んでよ……。 」
誰もが僕を、忘れたままで、世界の時間が過ぎてゆく。
「―――― 誰か…… 。 」
その時、遠くから聞こえる暴力的な不協和音が、耳に詰まった靄を消し去ってくれた。
振り向くと、眩暈がするほど明るいライトが僕を圧倒する。
眩しさと排気ガスの煙たさに目を瞑った。
しかし心の奥では認識している。 あらゆる軋轢を孕む存在感を。
エンジン音が鳴りを潜めたら、そっと目を開く。
そこには予想通り、真っ赤なバイクが停まっていて。
「よォ、東和の兄ちゃん。なーに湿気たツラしてんのぉ。」
金髪を逆立て、夜なのにサングラスをしているバイクの主が、ヤニで黄ばんだ歯を見せ怪しげに笑っても、
僕はそいつに縋るしかなかった。
「颯ーぇ! 超ナイスタイミングー、僕めっちゃ暇してたんだよ!!」
指折りの問題児である留年生の名を呼び、バイクを降りて来る彼に駆け寄った。
痩せさらばえた背を叩き、そのまま肩を組む。
颯はケタケタと笑って、僕の頭を小突いた。
「あいっかわらずうっせぇね、おめーは。また女引っかけんの失敗したんだべ?」
こいつと親しくなって数か月は経っただろうか。
特徴的な訛りの喋り方も、だいぶ聞き取れるようになった。
「今日はナンパしてないー!
さっきまで友達と遊んでたんだけど、みんな帰っちゃってさ。
まだ遊び足りないのに誰も捕まんなくて、どうしようと思ってたところ。」
艶々のバイクの隣で、颯は「ふーん」と興味なさそうな相槌を打つ。
吐く息から、バニラと煙草の匂いがした。
「で、何。俺と遊ぼうってぇの?」
「ピンポーン!どうせ暇でしょ?バッティングセンターでも行かない?」
颯がどんな奴かは知っていた。
知っていようがいまいが、誰もこいつと遊ぼうとは思わないだろう。
僕だって思わない。 いつもなら。
でも今日は別だ。
こいつが此処に来た時点で、僕の運命は転がってしまった。
「ンなつまんねぇもんよりよォ、もっとおもしいことしねぇ?」
吐く息にアルコールの気配が混じっても。
此方に傾く目が据わっていても。
宵越颯という人間に、寄りかからざるを得ないのだ。
「……えー?ナニ、それ。 この辺でそんな面白いもの、あったっけ?」
自分で自分を保つために。
颯の細い指が、ポケットから何かを引きずり出す。
掲げられた透明な小袋の中で、カラフルな錠剤が揺れた。
その向こう側で、悪魔が嗤っている。
「―――― ヤなこと全部、ブッ飛ぶぞ。」
僕は、颯と同じ笑みを作った。
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