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現代Fのオリジナルキャラクター達の紹介。
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兄ちゃん、俺、人間じゃなくなっちゃった。




その学区の小学校は、午後4時が下校時刻だった。
子どもたちは、6時間目まで授業がある月曜日と水曜日は、授業が終わったらすぐ下校を促される。
ぐずぐずしていると厳しい教師に叱られるため、どんなにやんちゃな生徒でも、蜘蛛の子を散らすように帰っていく。

しかし遊びたい盛りの小学生が、大人しく家で宿題をすると思ったら大間違い。
近所の公園に集い、日が暮れるまで遊ぶのが常だ。
東和兄弟もその例に漏れなかった。

瀟洒な庭付き一戸建ての東和家は、二人が通う小学校から徒歩15分の場所にある。
とはいえ、いくつかの家の裏庭をこっそり横切れば、10分で帰宅できた。
二人は家に帰ると、室内には上がらず玄関先にランドセルを放り投げ、すぐ外に駆け出していく。

「「ただいまー、いってきまーす!」」

夏休みが近い7月のある日、全く同じ音の二重奏が玄関先で響いた。
キッチンで夕食の下ごしらえをしていた母・叶恵(かなえ)の声が、追いかけて来る。

「6時までに帰ってくるのよ!」
「「はーい!!」」

6時には、父・錦(にしき)が会社から帰宅する。
双子はそれまでに帰ってくるように、普段から言い聞かされていた。
特別なことが無い限り、4人揃ってご飯を食べる。それが東和家のルールだからだ。


小学4年生の双子・一刻と永真は、公園までの道のりを小走りで行きながら、今日は何をして遊ぼうかと話し合う。

「ユージとてっちゃんとマサトが来るってさ!タツミとシンちゃんは塾だって」
「5人じゃサッカーできないね。缶蹴りは?」
「この間もやったじゃん!永真、弱いし。つまんねー」
「兄ちゃんだって、負けるときはずっと負けてるだろ!」

二人は、声も顔も髪型も、無邪気な性格までそっくりだった。
同じ学区の親しい友達でさえ、時々ふたりを間違える。
服装で区別をつけるほかないくらい、一刻と永真はよく似ていた。

同じ時に生まれ、同じ環境で育ち。
同じものを与えられ、同じだけ愛情を注がれた。
ふたつの存在が、雨垂れ石を穿つように凝縮し、似ていくのは、当然の摂理と言える。
二人にとって、それが安堵であり、絶対だった。
揺らぐものは何もなく、毎日は希望尽くめの一線上を流れていた。


その日も、いつもと同じ夕暮れだった。
仲の良い友人たちと広い公園に集まって、何をして遊ぼうか話し合う。

かくれんぼをすると決まったので、じゃんけんで鬼を決めた。
永真が最初の鬼になった。

「いーち、にー、さーん……――――」
キリンの形をした滑り台に額をつけて目隠しし、永真は数を数える。
変声期を迎えていないボーイソプラノの声が、オレンジ色の美空に響く。
重なり合う足音は軽快に、少年たちの息遣いは健やかに。
カラスが遠くで鳴いた。蜩の声がそれに重なる。

「…―――― きゅうじゅうきゅー、ひゃくー! もーいいかーい!!」

一際声を張り上げてお決まりの台詞を叫ぶと、微かな「もういいよ」が4人分聞こえた。
永真は顔を上げ、がらんどうと化した公園を見渡す。

ルールは、範囲は公園内だけとする・木に登るのは危ないから禁止・制限時間は10分間。
10分以内に全員を見つけられたら鬼の勝ちだ。
永真は時計台で時刻を確認し、よしっと気合を入れた。

永真はどんな遊びでも、鬼をするのがあまり得意ではなかった。
兄と比べ若干慎重な面があるため、行動する前に考えてしまい、時間をロスするのだ。
今までかくれんぼで鬼をして勝ったことはない。
とりわけ、一刻は隠れるのがうまく、殆ど見つけられたことがなかった。

今日こそ皆まとめて見つけてやろう。とにかく、考えるより先に動くんだ。
どこに隠れているのか、誰がどこに――――


「あれっ。」

ふと、永真の脳が疼いた。
静かな水面に一粒水滴が落ちたかのように、永真の感性にさざ波が立った。

それは初めての感覚だった。
遊園地に行く前日の忙しない幸福感。プールに入る前の冷たいシャワーの緊張感。両親が喧嘩をしているのを覗いた時の焦燥感。
何れにも似ている、浮世離れした脳の鼓動だった。

永真は操られるような早足で植え込みに直行する。
人の目に着く場所には程々の植物しか植わっていないのだが、それを掻き分けながら乗り越え、更に奥に行くと、小さな林のようになっていた。
兄が居る。永真はそう確信していた。

死角である木々の影に、一刻が身体を丸めてしゃがみ込んでいるのを見つけた。
夏草を踏みしめる音に気付いた一刻は、顔だけを永真の方に向けて、あんぐりと口を開いている。

「兄ちゃん、見っけ!!」

永真の得意げな声が、公園中に響いた。


その日の夕飯時、ふたりは件の出来事を嬉々として両親に語った。

「俺、どこに兄ちゃんが隠れてるか、すぐ分かったんだよ!」
「いつもは俺の事、最後まで見つけられないのにね!」
「ね、でも今日は一番に見つけたの。」
「みんなびっくりしてたね。」
「ユージなんか、俺と兄ちゃんが入れ替わったんじゃないかって」
「疑ってたからさ」
「何回か試しても、全部一発で場所が分かったんだよ。」
「ね、すごいよね?永真、びっくり人間コンテスト出られるかな?!」

錦と叶恵は、目を丸くしてその話を聞いていた。
次いで互いに顔を見合わせる。
叶恵の笑みはぎこちなく歪み、錦は何かを諦めたように頭を振った。

そんな両親の様子を見て、双子は首を傾げる。

「…すごくない?」

永真が不思議そうに尋ねた。
向かい側に座っている錦は、飯椀を卓に置いて、永真の頭を撫でながら微笑む。

「すごいな、永真。父さん、びっくりしたぞ。」

永真は照れ臭そうに肩を竦めた。
その横で一刻がニヤニヤ笑い、「永真、超能力者なんじゃね?」と茶々を入れる。
叶恵は食事の手を止め、黙って俯いていた。
すると錦が、今度は一刻の方に声をかける。

「一刻は、永真が隠れている場所が分かったことはないのか?」

一刻は目をぱちくりと瞬かせてから、少し考えて、

「ないなー。俺が鬼やった時は全然分かんなかった。普通に探せばソッコーで見つけられるけどね!」

永真に出来ることが自分には出来ないのが悔しいのか、後半は強い口調で言い切ると、ご飯を掻きこんで立ち上がる。

「ごちそーさま!俺ポケモンやろーっと。」
「あ、俺も!兄ちゃん対戦しよ!」

永真も慌ててご飯を頬張り、飲み込んでいないうちから席を立つ。
ふたりは競うようにして自分の食器をまとめ、キッチンの流し台に置き、バタバタと二階の子ども部屋へ上がっていった。

「宿題、ちゃんとやるのよ。」

叶恵の声が少しだけ震えているのに、双子は気づかなかった。




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