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現代Fのオリジナルキャラクター達の紹介。
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※この小説はフィクションです。
薬物乱用、未成年喫煙、飲酒運転等の違法行為を推奨する意図は含まれておりません。









「初めてだべ?したっけ、1,2個な。
いきなりヤりすぎてダウン入ったら、えれぇことになっから。」

薄暗い路地裏で、差し出した掌にピンクと紫の小粒が乗る。
間近で見てみると、ビタミン剤か風邪薬にしか見えない。
こんなもので多くの人生が失われているのだと思うと、寒気がした。

「身体に合えばうまくトべるけんど、やってみなきゃ分かんねぇかんね。」

「ふーん。 ねぇこれ、やめらんなくならない?」

「いっぺんくれぇなんちゃねえよ。最初でたまんなくなる奴なんて、そーたに居ねぇわ。」

常習化するのは、調子に乗って何回も使うからだそうだ。
初回で身体に合わずに具合が悪くなると、二度とやらないと思い近づかなくなる。
しかし大量服用してハイになったら、もう抜け出せない。
そうならないように、初心者には1,2個だけしか提供しないらしい。

良心的なんだか、そうじゃないんだか。
僕は苦笑しながら掌の錠剤を見つめる。

怖くはない。
空っぽになって自分を見失うより、数百倍はマシだ。

颯の瞳が細まって、視線で僕を促す。
一呼吸おいてから一気に2錠、口の中に放り込んだ。


――――― 何ともない。
味のないラムネが溶けたあと、粉っぽい感覚が舌の上に残る。
呆気なさに拍子抜けし首を傾げたとき、 世界がぐわんと歪んだ。

「うわ―――――」

自分の声がとても遠くで聞こえる。
貧血と睡魔の間のような、泥沼の心地に身が浸り、眼前がチカチカした。

身体が熱い。けれど、寒い気もする。
今、立っているのか、座り込んでいるのかも分からない。
耳の奥で円盤が飛ぶような音がして、目の前では火花が散って。

肩を掴まれた。
分厚い宇宙服の上から掴まれているような感覚だった。
揺さぶられると吐きそうになる。
けれど、 その嘔吐感がとてつもなく気持ちよい。

ぁあ、きもちい、と声を出したつもりだけど、音になっただろうか。
頭がふわふわして、骨も肉もとろけそうだ。
セックスの多幸感によく似ているけれど、それよりも悦として気持ちが良い。


名前を呼ばれた。
脇腹と腰を支えられ、身体が宙に浮く。
尻の下に振動を感じた後、脳幹がぐわんぐわんと鳴る。

手を引っ張られ、何か硬い物をつかまされた。
多分、バイクのハンドルだ。
その手の甲を、骨ばった手に押さえ込まれる。

鼓膜を突き破るほどのエンジン音がして、一瞬だけ意識がはっきりする。
目の前に颯の後頭部が見えて、路地裏の景色は大通りに変わっていて。
バイクの後ろに乗っているのだと分かった。

「 そのままトんどけよ、一刻!! 」

すぐさま意識がちぎれた。


ごつごつした背骨が身体の前面にあたっていて、痛かったとか。
ホラー映画に出てくる殺人鬼みたいな笑い声が煩かったとか。
断片的な情報は僕の中に残っている。

それよりも鮮烈な記憶は、混沌とした恐怖だ。
世界中の全てを置き去りにして、どこか遠くに連れ去られる感覚は、まるで自死だった。

そこは偽物のスパンコールをちりばめたような、煩雑で楽しい世界。
身体の震えを感じる暇も、涙を零す余裕もない。
唯一確かである颯の存在さえ、いつしか認識できなくなった。



ちぎれた意識が元に戻った時、僕は横になっていた。
眩しい室内灯に照らされ、自宅のリビングに居るのだと気づく。

全身に汗をかいている。
過呼吸のように、速く浅く息を吸い続けても、脈拍が落ち着かない。
吐き気を感じて口元を押さえるも、おくびしか出なかった。

「あ゛…………ッ いって、え」

ソファから身体を起こせば頭が割れるように痛み、視界はくらくらする。
全身に力が入らず、立ち上がりかけたところで、ソファの上に倒れ込んだ。
自分の身体が自分の物じゃないみたいだ。

唸りながら四肢を悶えさせていると、不意に視界に影が射す。
目を上げると、永真が無表情で立っていた。

「馬鹿なことしやがって。」

永真は吐き捨てるように言い、水の入ったコップを差し出した。
へらりと口元を緩めて、それを受け取る。
一気に飲み干すと、吐き気は増したが頭が少し冴えた。

「あは、ありがとー。 ……ぼく、 … えーと、………… 。」
「宵越が家まで連れてきた。」

僕がほとんど何も覚えていないのを察したのか、永真が澱みなく答える。
その表情は苛つきを帯び、針のような視線が僕を見下ろしている。

曖昧な笑みしか浮かべられない。言葉が何も、出てこない。


「やりたいならまた来い、死んでも知らねえけど、だってさ。」

冷え切った声で、颯の下卑た笑みが脳内に過る。

「――――あはは。勧めたのはアイツなのに。無責任ー!
死ななくてよかったあ。マジで、あいつ、やべーわ。引いたもん、僕。」

徐々に自分が戻って来る。
結局、颯に寄りかかろうと、あのまま一人で居ようと、僕は僕じゃなくなっていたのだろう。
だとすればあいつに会ってしまったことは、不運以外の何物でもない。


空笑いする僕の腕から、グラスが奪い取られる。
永真の掌に包まれたグラスに、僕の顔がうつる。
―――― 今にも泣きそうな情けない笑顔が。

「いくら馬鹿でも、こういうことだけはしないと思ってた。
どんな奴とつるもうが勝手だけど、付き合い方くらい考えらんねえの?」

胸に突き刺さる言葉たちが痛い。
おかげで段々と気持ちも冴えてきた。
自分が何をしたかも思い出して、どこか達観した思いで頬を緩めている。


「 死ねばよかったのに。 」


舌打ちと共に言い捨てた永真は、グラスをキッチンに戻し、リビングから出て行った。
一人残された僕は、永真が去り際にどんな顔をしていたか思い出そうとして、やめた。

「…………はは。 じょーだん、きっついね えいちゃん。」

カーテンの隙間から射しこむ朝日と、リビングの室内灯が入り混じって、僕を寝かせない。
圧倒的な空虚感を前にして、寝られないのならどうすればいいのだろう。

眠れないのに瞼を閉じた。
何にもない何にもない何にもない孤独に包まれて、僕は蛹になってゆく。

きっと今、僕は限りなく、一人だ。
それは僕にとって、死んでいるのと同じ。
宙ぶらりんの気持ちが枯れた喉から転げ落ち、けれど声には出さないで、泣いた。

( じゃあ、そっちに連れてってよ。 )




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