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現代Fのオリジナルキャラクター達の紹介。
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春が来たから、思い出話をしようか。





今でさえモテない男のレッテルを張られている僕だけど、一応彼女は居たんだよ。
一人目の子は中等部2年の時。性格が合わないってフラれた。
二人目の子は高等部1年の時。浮気されて別れた。
正直何で付き合ったかもよく覚えていない、どっちも明るくて派手めで似たり寄ったりな子だった。

そして三人目の子は、高等部2年の時。
僕は今でも、彼女のことを時折思い出す。
もうあの子の声を聞くことはできない。華奢な肩を抱くことはできない。
よれた笑顔は今でも僕の中で生きているのに。


四月のクラス替えで出会い、六月に付き合い始めて。
ウサギと和菓子が大好きなあの子は、十月に死んだ。


高校2年生に進学した初日。
各クラスの生徒が入れ替わり、僕は新しい友達がたくさんできることに心を躍らせていた。
退屈な始業式が終わり、既にクラスメイトほぼ全員と挨拶を交わしアドレスを交換していた僕は、ふと気が付いた。
隣の席の子と喋ってないや。

一番近い位置にいる生徒なのに何故会話をしなかったのか。
それはその子がとても地味で、目立たないタイプの子だったから。

担任が来てホームルームを始めるのを待つ間、皆が席を離れて談笑しているのに、その子だけは自分の席で静かに本を読んでいる。
1年の時は違うクラスだったけれど彼女の名前は知っていたので、隣に腰をおろし明るく声をかけた。

「せーいみーやさん! ね、僕のこと、知ってる?」

文庫本を注視していた彼女の、黒い瞳が僕をとらえて。

「……うん。 東和くんでしょう? 」

ぽってりとした唇がソプラノボイスを奏でる。

「知っててくれたんだ、嬉しー!」
「………目立つ人だから。」

彼女の目は既に文字を追っていて、僕の方は見ていない。
ポニーテールの黒い髪が風に揺れ、彼女の白い首を擽る。そこに春の息吹を感じる。

「僕、結構有名人だな~。でさぁ、清宮さんの下の名前って、香澄っていうでしょ?かわいい名前だよね。香澄ちゃんって呼んでいい?」
「別にいいよ。」
「やった。じゃあ僕のことも下の名前で呼んで。一刻、呼び捨て大歓迎。」
「………男の子を名前で呼ぶのは、ちょっと……」
「えー……… じゃあ、いっちゃん は?」
「じゃあ、それで。」

なんて淡白な子だろう。ウザがられている気さえする。
その時は女の子としてどうこうじゃなくて、普通にクラス全員と友達になりたかったから、僕は食い下がらない。

「香澄ちゃん、本好きなの?僕も少しは読むんだよ。今度おすすめの本、教えてほしいからさ。よかったらアドレス―――」

そこで、彼女が僕を見た。
果てしない草原のように、水蜜桃の果汁のように、ガラス細工の小鳥のように、狂おしく澄んだ視線だった。

「いっちゃん ってさ。」

ほんの少し語尾がカールするのが彼女の癖だと、知ったのは後のことだけど、今もまだ覚えている。
その後の言葉も。


「本当は騒ぐの、好きじゃないでしょ。」


ホームルームの鐘が鳴り、担任が入って来て、皆が席に着く騒がしさの中。
僕は自分の顔から笑みが消え失せるのに気付かなかった。



その日の帰り道にて、彼女曰く。

「私、将来カウンセラーになりたいの。だから、人が考えていることとか、本当の性格とか、すぐ理解できるように意識してるんだ。それで、いっちゃんのことも分かったんだと思う。」

なんとなく、だけどね。
そう付け足す彼女は涼しげな面持ちでまっすぐ前を見据えていた。

僕は賑やかなことが好きで、一人の時間より友達と遊ぶ時間の方を優先する人間だから、彼女の発言は「そんなわけない」と否定することが出来たはずなのに。
それが出来なかった。
心の奥底を指先で撫ぜられ、そっと掬い上げられるような、柔らかな感覚がそうさせなかったのだ。
他人から与えられるその感覚が、自己意識よりも確かなものなのか僕には分からず、ただ、彼女に対し深い興味を抱いた。


「………じゃあ、ここで。」

寮の前で淡白に別れを告げる彼女は、最後にそっと目を伏せて、

「なんだか、ごめんね。いきなり変なことを言って……気を悪くしたでしょう。
 私の主観的な印象を押し付ける真似をして……良くないよね。」

長い睫毛が揺れる。
オレンジ色の夕日が彼女を照らすと、そこだけがとても綺麗な水彩画に見えた。
僕は彼女の顔を覗き込み、屈託なく笑う。


「香澄ちゃん。 明日、君が一番好きな本、教えて?」





 


 

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