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現代Fのオリジナルキャラクター達の紹介。
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突き抜ける晴天を切ってゆくのは、名も知らぬ鳥だった。
その尾羽は青い気がしたが、よく見れば空の色で。
じゃあ何色だろうと見定めようとするが、太陽光のあまりの眩しさに、目を細める。

次いで、視界の端をシルクロードが過っていく。
それは飛行機雲だった。
先日見た映画のワンシーンと主題歌を思い出し、唇はハミングを紡ぐ。
「 ―――に、憧れて… ―――を、かけてゆく… 」
あのこのいのちは、 

「飛行機雲。」

もう一閃。
悠然と、当たり前のように駆けてゆく。
いつかは途切れてしまうのに、終の気配を滲ませない、力強いのに儚くて。
愛おしい。
僕には決して、届かない。

「どうやったって、 あんなふうには。」
流れることはできないのだと。
開け放した窓から漂ってくる花の香りが、僕の鼻孔を擽っているのに、
瞼の内側から忍び寄るのは、涙の気配。

春はこんなにも、きれいだから。
だから僕は、泣きたくなった。



―――― 咳き込むほどの春光で、今すぐ涙を浚ってよ。




*****************



「ごらんよ。綺麗だ!」
寮庭の花壇いっぱいに咲いた春の花々を前に、私は両手を広げて歓喜を叫んだ。
情熱を体現する赤、恋の芽吹く桃色、溌剌とした黄色に瑞々しい青色。
何処を切り取っても美しい。美麗他ならない風景に、絶賛を惜しまない。
「毎日話しかけて育てたからだよ。そうは思わないかい?」
背後で如雨露を持っている園芸部員は、苦笑いをして頷いた。

植物は、素直だ。
愛を与えれば愛で返してくれる。
ないがしろにすれば、必ずへそを曲げる。
人間よりもはるかに分かりやすく、だから美しい。
決して嘘を吐かない悠久の美が、私の心を虜にして、離してくれないのだ。

「まったく、困った子たちだよ。」
そう言って花弁を指先でつついてやると、部員の女子が噴き出すのが聞こえた。
「何が可笑しいんだい?」
「ううん、なんでも。」
彼女はどうやら、園芸部員としての気心が足りていないらしい。

春は、祝福だ。
全てが維吹を歓んでいる。
生命の躍動を感じる。
何て幸せなのだろう!

ふと、太陽光の眩しさを見上げたら。
寮の一室の窓から、物憂げな表情で空を眺め、雫を目尻に光らせる友人へ、私は伝えたい。



―――― 上を見ることだけが良いとは限らない。



******************



やばい。
「――あぁっ、この気持ちは何だろう!」
やばい、絶対やばい。
「目に見えない、そう、激情が大地から、足の裏を伝って俺の心に入ってくるのだ!!」
激情よりやばいのが空気から鼻の穴を伝って僕の口に入ってくるのだ。
「こっ、このきもちはなnだ――――っっっくしょん!!!」
花粉症です。

演技の山場で盛大にくしゃみをぶちまけた僕は、部員全員に爆笑され、部室の隅で体育座りして凹み中。
部員はというと、今日は一刻さんの調子悪いみたいだからかいさ~ん(笑)って帰ってしまった。
流れ出る鼻水をティッシュで拭う。
…大事な通し稽古の最中にこっぴどいミスをしたら、そりゃ凹むよ。

「だから春は嫌いなんだっ!」
ついには春にまで八つ当たりをして、丸めたティッシュをゴミ箱に投げた。はずれるし。
「…最悪。」
近頃やっと暖かくなって、春物の服は何を着ようか、春と言えば出会いの春、とか色々考えるのは楽しい。
でも花粉だけはいただけない。
重症に比べればマシな方なんだろうけど。

…自主練する気にもなれないので、痒い目を擦って帰ろうかと立ち上がり。
ふと窓の外を見ると、昼下がりの木漏れ日が燦々と降り注いでいた。
思わずそちらに寄って、寮の庭の方に視線を投げる。
本校舎からは遠いけれど、微かに、様々な色合いが風に揺れているのが見えた。

「…………… この気持ちはなんだろう、ねぇ。」
沸き起こる命の始まり。
新たな第一歩への祝福。
壮大な気配を一瞬にして、窓枠の中で感じ取った僕は、花粉なんかどうでもよくなったけど。
「……っっはーーーっくしょぃ!!」
逆らうことはできないみたい。
鼻水ずるずる啜りながら、スマホで弟にメッセージを送信し。
帰る前に、寮庭の花、見ていこうかな。と部室を出た。



―――― 問題はいつだって些細だ、世界は広いんだから。




*******************



微睡みの中に身体を浸す。
心も体もゆっくりと、ぬるま湯に包まれていくイメージ。
ぼやけた視界が不愉快じゃなく感じてきたら、もうすぐ眠りに落ちる合図だ。
そんなときにけたたましいメッセージ受信音を鳴らす兄を、今すぐぶん殴りたい。

『帰りは14時過ぎになる!』
『帰ったら飯つくるから、買い物シクヨロ(^ω^)』

本当にぶん殴りたい。
スマホの画面に軋むほど指を押し付けながら、俺は怠惰な身体を無理矢理ソファから起こす。
木漏れ日の中での昼寝は、四季の中で唯一好きな春の、醍醐味だというのに。
あいつはそれすらも邪魔をする。
追加で送られてきたメッセージは買い物リスト。
スーパーで買える食材の名称の最後に、こんなものが追記されていた。

『花粉症の飲み薬、鼻孔スプレー、マスク』

「………そうか。」
もうそんな季節か。
花粉症に全く縁のない俺は、兄の報せで本格的な春の訪れに気づく。
こんな気付き方、嫌だったけど。

じゃあ、薬局にもいかなきゃいけない。
いよいよ面倒になってきた。
でも無視をしたら飯が抜きになるわけだし、仕方がないので外出する。

天気が、いいから。
昼間ならマフラーが無くても平気だし。
透き通るほどの青空、胡散臭い雲もない、鳥のさえずりと梅の花。
それらが一応、不快じゃないから。
今日くらいは、そういう休日ってことでも、いいか。
木漏れ日に目を細める。何に腹を立てていたのか、忘却の彼方へと。



―――― 春に免じて、広い世界を甘受しよう。
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